命懸けの「チャンピオン」たち

「チャンピオン」と聞くと、スポーツの大会で優勝した選手のことをまず連想しますが、他の意味もあるんですね。「他者や大義を守る人、そのために戦う人。闘士、擁護者、支援者」です。

2005年に国連環境計画(UNEP)が”the Champions of the Earth”(チャンピオンズ・オブ・アース)賞を創設しました。気候変動、自然破壊、生物多様性の減少、環境汚染、廃棄物などの課題について、革新的で持続可能な解決のため取り組んできた団体・個人を毎年表彰してきました。

・政策面でのリーダーシップ
・インスピレーションと行動
・起業家的ビジョン
・科学とイノベーション

という4つの部門で評価され、これまでに116人の個人・団体が表彰されています。

12月10日に、2024年の”チャンピオン”として6人の受賞が発表されました。

UNEP:2024 Champions of the Earth

ごく簡単に説明します。

□ Amy Bowers Cordalis氏
インスピレーションと行動部門。米国先住民の権利擁護者。法律の知識と科学的研究、伝統知識を駆使して、ユロック族とクラマス川のより良い未来を確保。川の生態系を修復し、持続可能な漁業慣行の採用を促す活動をしている。

□ Gabriel Paun 氏
インスピレーションと行動部門。ルーマニアの環境保護活動家。NGO団体エージェント・グリーンの創設者。2009年以来、ヨーロッパ最後の原生林の破壊と違法伐採を暴露することで、カルパティア山脈の何千ヘクタールもの貴重な生物多様性の保護に尽力してきた。メディアや政府、企業と対峙。中傷、脅迫、身体的攻撃をくぐり抜けてきた。

□ Lu Qi 氏
科学とイノベーション部門。中国の科学者。30年間科学と政策の分野で働いてきた。中国林業科学院の主任科学者、グリーン・グレート・ウォール研究所(Institute of the Green Great Wall)の初代所長。世界最大の植林プロジェクトの実施、研究ネットワークとパートナーシップの確立、砂漠化、土地の劣化、干ばつの防止に向けた多国間協力の促進において重要な役割を果たしてきた。

□ Madhav Gadgil 氏
生涯功績部門。インドの生態学者。研究とコミュニティ活動を通じて数十年にわたり人々と地球の保護に取り組んできた。州および国家政策から草の根活動まで、天然資源の保護に関する世論と公式政策に大きな影響を与えてきた。生態学的に脆弱なインドの西ガーツ山脈地域での独創的な研究で有名。この地域は世界でも類を見ない生物多様性のホットスポット。

□ SEKEM
起業家的ビジョン部門。エジプトの持続可能な農業イニシアチブ。農家が持続可能な農業に移行できるよう支援している。バイオダイナミック農業と植林・再植林活動の推進により、広大な砂漠地帯が農業ビジネスが盛んな場所へと変貌し、国全体で持続可能な開発が推進されている。

□ Sonia Guajajara 氏
政策リーダーシップ部門。ブラジル先住民大臣。20 年以上にわたり先住民の権利を擁護してきた。2023 年にブラジル初の先住民大臣、そして同国初の女性先住民大臣に就任。彼女のリーダーシップの下、13 の地域が先住民の土地として認められ、森林破壊、違法伐採、麻薬密売人を追い払うことができた。

変革を進めようとすると、利害が激しく対立することもありますから、例えばルーマニアのPaun氏のように、こうした活動は時に命懸けになります。2023年のUNEPの報告書「Environmental Rule of Law」(環境に関する法の支配)によると、2012年から2021年の間に環境保護に携わっていた人々が世界で少なくとも1,733人殺害されたそうです。大体2日ごとに1人、ということになります。2021年だけでは200人が犠牲になっていますから、割合がもっと高くなります。まさかこれほどのことになっているとは、想像したこともありませんでした…。

この”the Champions of the Earth賞”には、”地球大賞”とか”地球の覇者賞”という訳語が当てられているのですが、こうした命懸けの背景を知ると、こんな平和的な名称ではちょっと物足りないような気がします。「チャンピオン」のもう一つの意味をとって、”地球のために戦う闘士”賞と呼びたいところです。

さて、「SDGsとその先のサステナブルな社会へ向けて」というテーマで国連大学がシンポジウムを開催するのでご案内します。

名称: シンポジウム「SDGsとその先のサステナブルな社会へ向けて:
    グローバルなデジタル社会はどのように変革を加速するのか?」

日時: 2024年1月9日(木)15:30~17:30 
会場: 国連大学
主催: 国際連合大学、慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ

参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

【開会挨拶】
蟹江憲史 教授(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、xSDG・ラボ代表)

【基調講演】「グローバル・デジタル・コンパクトと民間セクター(仮)」
チリツィ・マルワラ 教授(国連大学学長、国連事務次長)

【パネルディスカッション】「SDGsとその先のサステナブルな社会へ向けて:
グローバルなデジタル社会はどのように変革を加速するのか(仮)」 
・村井純 氏(慶應義塾大学教授)
・井田充彦 氏(日本マイクロソフト株式会社 政策渉外ディレクター)
・蟹江憲史 教授

モデレーター: 国谷裕子氏(ジャーナリスト、慶應義塾大学特別招聘教授)

【閉会挨拶】
中村和彦 大使(外務省 地球規模課題審議官)

詳しくはこちらをご覧ください。

【参考情報】
Environmental Rule of Law: Tracking Progress and Charting Future Directions(2023年11月22日)