「ヴァイオリン」か「バイオリン」か。「メインディッシュ」か「メーンディッシュ」か。「メモリ」か「メモリー」か。気になる。この、どうにも定まらない表記の揺れについて、このまま放置しておいていいのか。政府は一体なにをやっているのか?なんて思って調べてみたら、なんと70年以上前に政府内で審議が始まっていました。
しかし「原語の発音に即した表記」にすべきか「すでに国語化した発音を元にした表記」にすべきか、で結論が出ないまま時が流れます。1991年に『内閣告示第2号「外来語の表記」』としてひとつの決着をみました。面白いのは、これは外国語表記の「よりどころ」であって、「きまり」ではないという点です。「語形にゆれのあるものについて、その語形をどちらかに決めようとはしていない」「分野によって異なる慣用が定まっている場合には、それぞれの慣用によって差し支えない」などとされています。もう30年以上も前に、「もうね、ヴァイオリンでもバイオリンでもいいんだよ。小さいことを気にしなさんな」という結論が出ていたわけですね。
さて、パナマ共和国に面積425平方kmという巨大な人工湖”Lago Gatun”があります。”ガトゥン湖”という表記が多いのですが、ここは敢えて”ガツン湖”と書きます。この湖が作られた目的であるパナマ運河の歴史や経済・軍事上の重要性を考えたら、これはどうも”ガトゥン”では物足りない。”ガツン”のほうがしっくり来ます。
パナマ運河建設の構想は16世紀前半にはすでにありましたが、技術的な問題で実現されないまま300年以上が過ぎました。やがて、スエズ運河の建設で知られるフランス人レセップスが、当時パナマを支配していたコロンビア共和国から運河建設権を購入。1880年に着工しました。しかし技術的困難、疫病、資金難により、9年後には事業が破綻しました。
1898年の米西戦争でアメリカ海軍が軍艦をフィリピンに派遣した際、南米大陸を回って90日かかったことなども背景にあり、アメリカで運河建設の必要性が高まります。1903年1月にアメリカとコロンビアの間でパナマ地峡の租借権に関して定めたヘイ・エルラン条約が署名されましたが、コロンビア議会はこの批准を拒否。これを受けてアメリカはパナマの独立派を支援し、軍艦をパナマ市に派遣。同年11月3日、パナマは「パナマ共和国」として独立を宣言。アメリカはその後2週間のうちに国家承認し、パナマ共和国とパナマ運河条約を結び、運河の建設権や周辺地帯の永久租借権などを獲得しました。1905年に建設開始、1913年にはガツン湖の造成が完了、1914年に運河が開通しました。
太平洋戦争末期、日本海軍は大西洋の英米艦隊が太平洋に移動するのを防ぐために潜水艦と搭載機によるパナマ運河攻撃計画を立案したこともありましたが、その後の情勢変化で計画は実行されませんでした。
現在、パナマ運河を通過する船は年間13,000隻にも達します。日本を発着地とする貨物量は全体の13.3%を占め、利用国の順位としてはアメリカ(73.7%)、中国(21.4%)、に次いで第3位です。(2022年度)
そんな、日本にとっても大変重要なパナマ運河ですが、最近の気候変動の影響でガツン湖の水位が下がり、2023年からは史上初めて1日に通行できる船の数を制限するようになりました。物流は滞り、物価にも影響します。
気候変動の影響が避けられないパナマ運河のこれからについてセミナーが開催されますのでご案内します。
名称: オンラインセミナー「パナマ運河の未来:気候変動とグローバル物流の行方」
日時: 2024年9月30日(月)14:00〜15:30
会場: オンライン
主催: 公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団
参加費: 無料
主な内容:下記HPより抜粋
現在、パナマ運河は、気候変動による降雨パターンの変化などによる深刻な水不足の影響を受けており、運河の運営に大きな課題が生じています。2023年には、船舶の通過可能な数が減少し、待機時間が長くなるなど、世界の物流に深刻な影響を与えました。最近の報告によれば、水位は回復傾向にありますが、気候変動による長期的な影響は依然として不透明です。パナマ運河の気候変動リスクは、世界経済にどのような影響を与えるのでしょうか。また、数年前に話題になった「第2パナマ運河」建設計画や、パナマ運河の拡張計画は、現在どのような状況なのでしょうか。
今回のオンラインセミナーでは、拓殖大学商学部国際ビジネス学科の松田琢磨教授をお招きし、パナマ運河の概要から、これまで果たしてきた役割、世界の物流における重要性、日本との関わり、そして気候変動がもたらす影響や今後の展望について、わかりやすく解説していただきます。松田先生は、長年にわたり世界の物流に関する研究を続けており、その専門知識をもとに最新の情報をお届けします。
講師 松田 琢磨 氏
拓殖大学商学部国際ビジネス学科教授、(公財)日本海事センター 企画研究部 客員研究員
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