「脱炭素」というと、つい二酸化炭素ばかりに気を取られてしまいますが、これを忘れてはいけませんでした。亜酸化窒素(一酸化二窒素)です。
地球温暖化を考えるとき、二酸化炭素、メタンの次に重要な第三の気体です。大気中の亜酸化窒素の濃度は、CO2濃度の1,000分の1ほどなので、それだけ聞くと「ほう。そんなわずかな気体、放っておけばよかろう」などと反射的に口走ってしまいそうですが、ところがこの亜酸化窒素、温室効果がCO2の約300倍もあります。このため、すべての温室効果ガスの中で、温室効果への寄与度が5%にもなります。
それに加え、亜酸化窒素は対流圏ではほとんど消滅せず、成層圏に達した後に光化学反応によって分解されるのですが、その反応中に生成される一酸化窒素が、オゾン層を破壊してしまいます。
これは手強いですね…。そもそもどこから発生するのでしょうか。
自然起源としては海洋からの放出や土壌中の微生物活動があり、人為起源としては化石燃料燃焼、バイオマス燃焼、窒素肥料、農耕牧畜、汚水などが知られています。
農業で使われる窒素肥料は、土中の硝化菌によって変化を受ける過程で亜酸化窒素が生成され、それが大気中に出ていくと温室効果をもたらします。窒素肥料を土壌に投入すればするほど、より多くの温室効果ガスが発生することになるわけです。
2021年、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター(国際農研)が、少ない窒素肥料で高い生産性を持つスーパー・コムギの開発に成功しました。
研究では、窒素肥料を6割少なくしても、生産性が維持されることが分かりました。世界の小麦栽培面積は約2億2,500万ha。こうしたスーパー・コムギを世界の栽培面積の3割に普及させると、温室効果ガスを9.5%削減できるという試算もあるそうです。
この研究は、2022年3月に米国科学アカデミー紀要(PNAS:Proceedings of the National Academy of Sciences of United States of America)から、2021年最優秀論文賞(Cozzarelli Prize)を受賞しました。
温暖化対策にはいろいろなアプローチがあるものだ、とまた改めて知りました。