「クレオパトラの鼻が低かったら、大地の全表面は変わっていただろう」とフランスの哲学者パスカルが書いています。ちょっと待ってください。鼻の高さってそんなに重要なんですか?と思ったりもしますが、出発点におけるほんの些細な変化が、その後の成り行きを大きく変えてしまう可能性があることを示しているそうです。
これに似た意味の科学用語で「バタフライ効果」と呼ばれるものがあります。1972年にアメリカの気象学者エドワード・ローレンツが行った講演のタイトル「予測可能性:ブラジルの一匹のチョウの羽ばたきはテキサスで竜巻を起こすか?」に由来します。
1961年、ローレンツが計算機上で数値天気予報プログラムを実行していた時のこと。ある数値を「0.506127」と入力した時と「0.506」と入力した時とで、計算結果が全く異なっていました。この出来事から彼は、わずかな違いが大きな違いを引き起こすという、「初期値鋭敏性」と「長期予測不能性」のアイデアを思いつきました。
大気の状態などの観測数値には誤差があるだろうから、気象の予測には限界があるよね、という話になるのですが、近年、予測の精度が高まってきたため、今度は逆の可能性が生まれてきました。
「わずかな違いを人為的に作り出せば、あとに大きな違いを生み出せるんじゃないか?」という考え方です。そして今、この研究が少しずつ進んでいます。
国立研究開発法人 科学技術振興機構によるムーンショット型研究開発事業の一つ「気象制御可能性に関する調査研究」で、理化学研究所の研究チームが、気象制御に向けた制御シミュレーション実験の新理論を考案しました。
理化学研究所: プレスリリース
目標として、どんなことを描いているのか。令和3年7月の調査研究報告書によると、
以下2点を2050年に向けたターゲットとする。
●2050年までに、豪雨や台風などの気象の場所や強度を変化させる介入制御により、気象災害の発生、被害を大幅に軽減する。
●2050年までに、ロケット発射時や果物収穫時の雨のタイミングをずらすなどの気象介入制御技術により、幅広く便益を得る。
とあります。
調査報告書には技術面だけでなく、社会的な側面も含めた実現可能性、課題、問題点などが触れられていて興味深いです。
ところで、パスカルはああ言ったものの、クレオパトラは実際には特に美人ではなかったそうです。美貌や鼻の高さがどうであれ、世界史において大きな存在であることには変わりありませんね。