福岡市では2020年2月に「2040年度GHG排出量実質ゼロを目指したチャレンジ」を表明しました。環境省が定義するゼロカーボンシティは、「2050年までにCO2を実質ゼロにする」ことなので、それよりも10年早い野心的なチャレンジです。
その福岡市が行なっている様々な取り組みについては公式サイトで見られますが、この中で福岡市独自の面白い取り組み一つあるので紹介します。
「福岡市博多湾ブルーカーボン・オフセット制度」が令和2年10月に創設されました。陸上の森林が吸収する炭素がグリーンカーボン。それに対して海藻などの海の植物が吸収する炭素がブルーカーボンです。博多湾の藻場が吸収するCO2の吸収量をクレジット化し、販売。その収益を使って博多湾の環境保全や気候変動対策を推進しようとするものです。
令和2年度の実績は、クレジットは1t-co2あたりの価格が8,000円で販売され、用意されていた43.4 t-co2が完売となり、販売収益は347,200円でした。金額だけを見ると少なく見えますが、見方を変えるとそうでもありません。
林野庁のサイトによると、 1世帯から1年間に排出される二酸化炭素の量は、4,480キログラム。 この排出量を、40年生のスギが1年間で吸収する量に換算した場合、スギ509本分の吸収量と同じぐらいだそうです。
これをもとに計算すると、この43.4 t-co2というのは、約4,900本のスギが1年で吸収する量に匹敵します。こうしてみると、すごい話になってきます。
藻場というのは海中にあるため、直接見ることがあまりありませんが、「海の森林」とも呼ばれ、様々な水生生物が産卵し、幼魚が育つ場でもあり、炭酸ガスの吸収、酸素の供給、窒素やリンの吸収など、海水の浄化にも役立っています。藻場がなかったら、私たちの食卓もスシ文化も大きく違ったものになっているでしょう。
潮干狩りやバードウォッチングのポイントとしても知られる和白干潟では、地元の小学校たちも参加してアマモ場づくりを進めており、アマモを観察したり、種から育てたアマモを海へ還すなどの学習を行なっているそうです。
福岡市のブルーカーボン・オフセット制度は、二酸化炭素の吸収・固定にとどまらず、地域独自の自然環境と生態系を守りながら、子供たちの環境意識も育んでいける取り組みということですね。
なお、客観的で深い考察に興味のある方には、こちらの論文が参考になるかもしれません。
「博多港におけるブルーカーボンオフセット制度の創設と今後の展望」
(土木学会論文集G(環境)2021年)