太陽光を反射する数十億個の硫酸エアロゾルを中層大気に大量散布して、地球に降り注ぐ太陽光を遮ることにより地球の温暖化を軽減しようとする手法について、禁止すべきだという公開書簡を60人余りの科学者らが発表し、各国政府や国連などに呼びかけました。
地球温暖化対策等のための気候システムへの工学的介入は気候工学(Geoengineering)と呼ばれますが、「二酸化炭素除去(CDR)」と「太陽放射管理(SRM)」の二つに大きく分けられます。今回の公開書簡では、後者について「潜在的に大きな危険を伴うため、禁止すべき」だと呼びかけたものです。
1991年にフィリピンのピナツボ火山が噴火した際には、1年以上にわたって地表の平均気温が下がりました。その影響で2年後の1993年に日本は記録的な冷夏となり、タイ米を緊急輸入する事態となったことを記憶されている方もいらっしゃると思います。なお、先日のトンガでの火山噴火では、ピナツボ火山の噴火よりも放出された二酸化硫黄が少ないため、気候への影響は限定的とみられています。
一方で、太陽光を人為的に弱めるSRMによって一部地域で降水量が減少し、農作物に大損害を与える可能性があるという研究結果があります。また、SRMが何らかの理由で中止された場合、地表温度が急激に上昇するというIPCC(気候変動に関する政府間パネル)での指摘もあります。いずれにしても、地球の生物多様性に大きな影響がありそうです。
地球の環境を人間が意図的にコントロールすることはそもそも難しいことですし、それによる弊害を考えた場合、地道に「脱炭素」の活動を行っていくしかないのかもしれません。