放射性廃棄物を排出する原子力発電。二酸化炭素を排出する天然ガス。環境意識が高く、昨今の脱炭素路線をリードする欧州連合(EU)が、1月1日にこの二つを「持続可能な経済活動」に含めることを検討する方針を発表しました。え、どうして?と感じる方もいると思いますが、風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーだけで電力需要をまかなえるようになるまでの移行をスムーズにするための手段として捉えている
ようです。
EUには、「EUタクソノミー」と呼ばれる仕組みが2020年7月から施行されています。タクソノミー(taxonomy)とは、元々は生物学における生物の分類法や分類学を意味するものですが、ここでは「分類」という意味で使われています。EUは2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという目標を掲げていますが、それを実現するためには持続可能な経済活動に多額の民間投資を促す必要があります。そこで、何をもって「持続可能な経済活動」とするかを明示する必要が生じてきました。そこで定められたのがEUタクソノミーです。
タクソノミー規制では環境に関して6つの目的を定められており、これらに資するものが「持続可能な経済活動」とされています。
(1) 気候変動の緩和
(2) 気候変動への適応
(3) 水・海洋資源の持続可能な利用と保護
(4) 循環型経済への移行
(5) 汚染の予防と管理
(6) 生物多様性とエコシステムの保護・再生
現状ではEU加盟国の電源構成は各国で異なっており、ドイツのように脱原発を進めている国もあれば、フランスやスウェーデンのように原子力発電が最大の電源になっている国もあります。またポーランド、ハンガリー、ブルガリアなど、現状は石炭火力発電に頼らざるを得ない東欧諸国もあります。このように各国の立ち位置がさまざまな状況下で、EUとしては再生可能エネルギー社会への移行を促進する一つの手段として天然ガスと原子力が一定の役割を持ちうるとの判断があったようです。つまり、再生可能エネルギーへの移行に役立つ、持続可能な経済活動だと位置付けられたわけです。
しかしドイツ、オーストリア、ルクセンブルグ、デンマーク、ポルトガルなどはこの方針に強烈に反対しています。
各国の電源構成の違い、理想と現実のギャップ、地政学的リスクなど、いろいろな背景がありますが、EUで起きている議論は世界に大きな影響を与えると思われますので、どう決着するのか、注目していきたいところです。