自治体のゼロエミッションはこう実現する その2

*レター「自治体のゼロエミッションはこう実現する その2 脱炭素社会への転換と地域発展」を配信します。図を含む全文は、PDFファイルを御覧ください。

自治体のゼロエミッションはこう実現する その2 脱炭素社会への転換と地域発展
歌川学(産業技術総合研究所)

地域の脱炭素シナリオ

 地域の脱炭素転換分析の例を示す。関東地方の人口8万人で産業部門の排出量(産業の購入電力分を含む)割合が約3割の自治体で、更新時に設備機器の省エネ、断熱建築、燃費のよい車を導入すると、2030年に最終エネルギー消費を2017年比で30%削減、2050年に50%以上削減できる。2030年に電力消費量あたりCO2を次期エネルギー基本計画の想定まで下げると自治体CO2は2030年に60%削減、その後電力と熱利用の再エネ転換を進め2050年に排出ゼロになる。全国1700自治体の大部分ではここに近い2030年にCO2排出量の50?60%削減、2050年排出ゼロが見込まれる。

脱炭素の地域メリット

 脱炭素対策は気候危機回避に加え、地域に大きなメリットがある。上記自治体では2017年に企業・家庭の光熱費が約200億円ありその多くが域外に流出している。対策は光熱費削減をもたらし、2050年に光熱費は6割削減される。省エネ機器・断熱建築・電気自動車などの設備費は光熱費削減の半分程度でおさまり全体として得である。しかもこの設備投資を断熱建築で地域工務店が受注し、省エネ機器も地域企業が取り次ぐこと、残る光熱費も地域再エネ発電で賄うことで、お金が地域で循環する。脱炭素は地域企業の大きなビジネスチャンスである。但し大手企業の参入もあるので、地域企業は自治体の協力も得ながら今から準備する必要がある。

専門的知見の活用と地域の専門家と自治体市民の連携

 省エネ設備機器・断熱建築導入は、今ある優良技術を補助金に頼らなくても光熱費削減でもとが取れるものが大半で、適正技術を適正価格で選ぶのが課題である。再エネも特に太陽光以外では適地かどうかの判断が必須で、同じく適正価格で選ぶのが課題である。これについて欧州自治体で、断熱建築新築・改修を中心に公的中立の専門家の診断・アドバイスのしくみが発達している(的場ら,2021)。値段や何年で「もと」がとれるか不明なことは対策の大きな障害であり、補助金待ち、実際は費用対効果が高いのに補助金の範囲でしか対策が進まない弊害がある。公的中立に、地域企業・住民に専門的アドバイスするしくみが求められる。

 日本では地域の省エネで専門的知見を活かすしくみとして、京都で電気機械の専門家実務家グループが地域企業に省エネ診断・アドバイスを実施している。

 初期投資費用を最初に求めず再エネ発電売電分で返済する「初期投資ゼロ円システム」を、各地の地域小売電気事業者、長野県飯田市の地域エネルギー会社のおひさま進歩などがつくり普及を促している。このしくみは大手企業の省エネではESCO(エネルギーサービス会社)が実施、今後は中小企業や家庭むけにも地域省エネ・再エネ普及で自治体・企業・金融機関が協力し、しくみをつくることが望ましい。

自治体の実態把握と計画策定

 自治体はこれまで地球温暖化対策計画の区域編をもつ所は限られていた。しかし、今後は温対法改正で施策の実施に関する目標が義務化され、全市区町村で計画をもつことが課題である。

 まず自治体政策のもとになる排出量実態把握である。都道府県はエネルギー消費量、CO2排出量統計があるが、多くの市区町村にはないのでまず排出実態を推計する。現状ではCO2排出量を国や都道府県の排出量から活動量を按分して求めている(注)。東京都、埼玉県では全市区町村の排出量を推計して提供している(みどり東京・温暖化防止プロジェクト,2021,埼玉県,2019)。他の道府県でも大学・研究機関や実務家の支援も得て実施されると望ましい。エリアに一定規模の工場がある市町村は、環境省の「排出量算定・報告・公表制度」で工場事業所ごとの排出量が得られている(環境省,2021a)ので参考にする。さらに、進捗点検では、按分での排出量算出では地域の対策で排出削減した成果が統計にあらわれない。今後は電力、都市ガス、各種化石燃料のエリア内供給を、将来は国が市町村ごとに把握して提供、それまでは都道府県や市区町村が条例で定めるなどして供給事業者に報告を求め、市区町村ごとの毎年の実態が把握できるしくみが望まれる。

 実態を把握し、地域脱炭素シナリオの項で述べた排出ゼロへの道筋(ロードマップ)をもとに、あるいは気候危機回避のためバックキャストで(あるべき将来の姿からさかのぼって)目標と計画をたてる。目標は国の2030年46%削減(温室効果ガス排出量を2013年比で)、2050年排出実質ゼロは多くの自治体としても必須と考えられる。
さらに「その1」冒頭に述べたように気候危機回避のため、さらに大きな削減が今後議論になり、それを見越して2030年はより強い目標が求められる。「地域の脱炭素シナリオ」で述べたように、多くの自治体で、省エネ再エネによって50?60%削減の可能性がある。長野県、札幌市、東京都など50%以上の削減目標を定めた所もある。
長野県は意見募集を経て目標を引き上げており、住民・地域主体との対話で目標を考えていくことが望ましい。

 目標を定めたら排出ゼロへの道筋での主な対策を念頭に、それを推進する政策をたてる。これも地域主体や住民との対話で考えていくことが望ましい。これは次の項で述べる。

自治体政策など

 地域の省エネ再エネ普及は、市民が専門家実務家の支援も得て地域の実態をふまえ、家庭の中の対策にとどまらず地域の排出でより大きい割合を占める企業や車の排出削減、電力の排出削減の効果的な対策とそれを進める政策を提案し、普及していくことが望まれる。

 地域政策は多くの課題があり、ここでは幾つか述べる。

 前記の省エネ再エネについて公的中立に、地域企業、住民に専門的知見をアドバイスするしくみが求められる。

 断熱建築普及では国や都道府県の規制政策利用に加え、地域でさらに断熱性能の高い建築の普及が望まれる。鳥取県は高い断熱性能の基準を示した(鳥取県,2021)。他でも基準をつくり、普及政策をつくり、最終的に国の政策を向上させることが望まれる。

 再エネ電力普及では「送電線接続問題」がある。地域内・地域間送電線拡充を早期に行うとともに制度の問題が大きい。専門家を含め地域全体で担当送電会社と応対する課題といえる。

 またRE100(再生可能エネルギー100%目標)をもつ大手企業では、サプライチェーン全体で排出ゼロ、再エネ100%目標をもつ所が増えている。地域企業で取引のある所も目標年次までに再エネ100%、CO2排出ゼロを達成する必要がある。地域政策で早く再エネ100%を実現することで地域企業の仕事も守ることができる。

まとめ

 気候危機回避のため、地域脱炭素が課題である。

 地域脱炭素は大半の自治体で今ある優れた技術で、光熱費削減や売電収入で「もと」をとりながら進めていくことが出来る。

 対策は政策で後押しする必要があり、自治体で、国・都道府県制度も活用し、補助金でなく規制やその他政策手法、情報提供やアドバイスなどを広げていくことが課題である。

 地域脱炭素は地域で生活を豊かにし、また地域産業・雇用を拡大し、地域発展させながら進めることが可能である。地域の将来を市民が考え、提案していくことが求められる。

注:環境省が方法論を公表している(環境省,2021b)。また推計値を環境省、環境コンサルのe-konzalなどが全市町村について発表している(環境省,2021c,e-konzal,2021)。両者の値が大きく異なる所もある。環境省の推計値は、鉄鋼、セメント、化学工業、製紙の大きな工場群のある道県では、産業部門の排出量が工場群のある市町村で小さく、他の市町村で大きく出る傾向がある。環境省とe-konzalの推計を参考に方法論のもとにあたり、市区町村で大学や研究機関や実務家の支援を得て点検することが望ましい。

参考文献

e-konzal(2021):市町村別CO2排出量
https://www.e-konzal.co.jp/e-co2/

環境省(2021a):温室効果ガス排出量算定報告公表制度
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/result

環境省(2021b):「地方公共団体実行計画(区域施策編)策定・実施マニュアル算定手法編
https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/data/manual_santei_202103.pdf

環境省(2021c):市区町村別部門別CO2データ
https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/tools/suikei2.html

埼玉県(2019):市町村における温室効果ガス排出量の状況
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0502/sicyouson.html

鳥取県(2021):とっとり健康省エネ住宅性能基準
https://www.pref.tottori.lg.jp/item/1223549.htm#itemid1223549

的場ら(2021):的場・平岡・上園編「エネルギー自立と持続可能な地域づくり」,昭和堂,2021.
みどり東京・温暖化防止プロジェクト(2021):東京62市区町村の温室効果ガス排出量(推計)算出結果
https://all62.jp/jigyo/ghg.html