*レター「地域脱炭素ロードマップ ~私の見方~」を配信します。表を含む全文は、こちらのPDFファイルを御覧ください。
「地域脱炭素ロードマップ ~私の見方~」
エネルギー事業コンサルタント(元一般社団法人日本ガス協会地方支援担当理事)
角田 憲司 ktsunoda7817@outlook.jp
1. はじめに
筆者は都市ガス出身であり、地域に根ざす都市ガス事業者の立場から地域エネルギー事業にも関わってきた。
地方都市ガス(千葉ガス)在職時には、2013年という早い段階に、供給エリアの複数自治体と共同で「地産地消型の自治体新電力事業」を構想したこともあった。
そうした経験を基に、6月9日の「国・地方脱炭素実現会議」において示された「地域脱炭素ロードマップ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~」について、自身の見方を紹介する。
2.「地域脱炭素」とは
地域での取り組みに関して、都市ガス事業者と(基礎)自治体には共通点がある。それは「ここで何ができるか」を考えねばならないことである。導管インフラ事業たる都市ガス事業は、地域の持続的発展があってこそ成り立つ。
一方、自治体は、暗黙裏に「ここで何ができるか」を考える組織体であり、その意味で両者は「一蓮托生」の関係にある。地域脱炭素においては、(脱炭素先行地域以外の)大半の自治体・地域が、これに該当する。
それに対して、「どこで何ができるか、何をするか」は、特定地域に縛られず自社の発展を模索できる企業等が持てる視点であり、地域に向けた各省庁の政策も基本的に同じである。策定された政策が実践可能な適地探しから始まり、その後、横展開するのが一般的であり、地域脱炭素でいえば、「脱炭素先行地域をつくる」取組がこれに
該当する。
「地域脱炭素」は、国と自治体が協力しながら、「地域」を主語にして日本の地球温暖化対策を進める考え方だと受け取れる。ただし、日本に地域という名の地域はなく、全て固有名詞を持っている。「地域」を主語にするとは、固有名詞の代表格である自治体が、自らの立ち位置から責任をもって、また多様な関係者との連携を通じて、自分の地域の脱炭素を図り、それを通じて日本全体の脱炭素の実現に貢献することと理解する。
となると、「地域脱炭素」は一部の自治体の成功にとどまらず、全ての自治体が成功を目指せるよう配慮されたものであることが望ましい。すなわち、原点は「どの地域、どの自治体も取り残されないし、取り残さない」というSDGsの理念にあるのではないか。
地域脱炭素政策は国の政策視点たる「どこで何ができるか、何をするか」と自治体の政策視点たる「ここで何ができるか」の双方を組み合わせているものの、視点の実質的な重心は後者に置くべきである。
3.「ここで何ができるか」から見た「地域脱炭素ロードマップ」の意義と期待
その観点から極めて大事なのは、「脱炭素に関する『はじめの一歩』として、『ここで何ができるか』を考えたいものの、『何から考えればよいか』『どう考えればよいか』で悩む自治体・地域に対する支援体制の充実」ではなかろうか。実際、「ゼロカーボンシティ宣言はしてみたものの、何を、どうしたらよいかわからない」とする
自治体も多い。
では、どうすべきか。ヒントは「脱炭素ドミノ」の起こし方にある。
「脱炭素ドミノ」という強力な発信力を持ったワードは、昨年12月の「第1回国・地方脱炭素実現会議」にて披瀝された。この時点での脱炭素ドミノは「モデルケースからスタートした脱炭素ドミノを2030年までにできるだけ多く実現し、その後、ドミノをより広域に拡大する」とされていたが、6月のロードマップでは、次々と起こった自治体のセロカーボンシティ宣言を「決意・コミットメントの脱炭素ドミノ」にたとえて、「それを基に、意欲と実現可能性の高い地域から全国に広げる『実行の脱炭素ドミノ』を起こす」と書き換えられた。さらには、「この地域発の『実行の脱炭素ドミノ』は自然発生するものではなく、国と地方の行政、企業や金融機関、一般市民が一致協力し、初めて起こすことができる」と記されている。
これから2つの意味が読み取れる。
1つ目は、地域発の『実行の脱炭素ドミノ』の最小単位(セル)は、自治体レベルや補助金を活用した実証事業レベルよりもっとミクロな、たとえば町内会、学区域、小集落といった『区域・地域』レベルであるとして、省エネから再エネ、サーキュラーエコノミー、森林保護などできることを区域・地域の特性に応じた様々な方法で意欲を持って実行することが重要だという点であり、ロードマップではそのための多様な取り組みが推奨されている。まさしくこれが、「ここで何ができるか」に関する最もベーシックなはじめの一歩」だということである。
2つ目は、地域脱炭素は最終的には「(実質)ゼロカーボン」という数値目標の達成が求められることを考えると、できることだけの積み上げだけではそれに届かない可能性が高いため、ドミノの発想で先行する好事例を自地域に取り込む必要があり、そのためには自治体を中心とした地域が、それを取り込む基礎体力(制度・政策に関するリテラシーや多様なステークホルダーとの調整力、実現に向けた推進力等)を養わねばならないという点である。
たしかに、とりわけ小規模自治体は地球温暖化対策に関するリテラシーが十分とは限らず、ロードマップを読み解くことさえ大変である可能性が高い。
この点に関して、ロードマップでは「地域の実施体制に近い立場にある国の地方支分部局(地方農政局、森林管理局、経済産業局、地方整備局、北海道開発局、地方運輸局、管区等気象台、地方環境事務所等)が水平連携し、各地域の強み・課題・ニーズを丁寧に吸い上げて、機動的に支援を実施していく」としている。こうした「縦割り
を廃した国・地方の連携強化」は自治体からの要望も強く、自治体と一致団結して取り組む地域の企業や金融機関、一般市民にとってありがたいことである。願わくは、先行して取り組む地域が脱炭素を実現するプロセスへの支援と並行して、地方支分部局を中心に「脱炭素意欲はあるものの、リテラシーや人材等の要件が整わない自治体」の底上げ支援を図っていただきたい。たとえば、全自治体における「はじめの一歩」に関する課題や要望等の「ご用聞きをする」という、「STEPゼロ段階の支援」を行うなどである。
4.おわりに
「地域脱炭素ロードマップ」の真骨頂は、「地方創生と脱炭素の好循環」という言葉に象徴されるように、地方創生戦略の立ち上がり期には見られなかった「地方創生と脱炭素の融合」が対策・施策の土台になっていることにある。
この融合は、どの地域においても、コロナ禍がもたらした地方経済の疲弊や人口減少・少子化の加速、地方税収の減少、さらにはカーボンニュートラル社会への移行に伴う産業構造転換がもたらす地域産業の衰退等の課題に直面しつつ地域脱炭素を進めなければならないことを考えると、極めて適切な政策転換だと言える。
それぞれの自治体・地域で「地域脱炭素」をどうやって地方創生につなげるか。これは2030年までのロードマップ工程で外せない視点である。
こうした悩みはあるにせよ、立ち止まっていては何の解決にもならない。その意味で大事なのは、ロードマップを参照しつつ、また「脱炭素先行地域」になれる・なれないに関わらず、どの自治体・地域も早めに何らかのアクションを起こすことではないだろうか。