ジェンガから砂山へ

「ジェンガの上の方だけ見て喜んでいるようなものか…」
ケンブリッジ大学名誉教授パーサ・ダスグプタ氏のインタビュー記事を読んで、ふとそんなことを連想しました。教授は2021年に「生物多様性の経済学(The Economics of Biodiversity)」という、人間の経済活動と自然生態系との関係に関する610ページに及ぶ報告書を発表したことでも知られています。

報告書では、1992年から2014年の間に(機械・車両・建物などの製造物である)人工資本は2倍に増大した一方で、(森林・土壌・水・大気・生物資源など、自然によって形成される)自然資本は40%減少したとされています。通常私たちは経済成長を見るとき、GDP(国内総生産)を指標にしますが、GDPの計算には、経済活動から生じた自然環境の損失は含まれていません。GDPが成長して喜んだとしても、その背後でどれだけの自然資本の損失があるのか、全く見えていないわけです。

これを読んだ時、ジェンガというゲームを思い出しました。木片ピースを積み上げたタワーからピースを一本ずつそっと抜き取って上に積み直していく遊びで、最終的にタワーを崩してしまった人が負けです。GDPの数値は、その上に積み上がっていく部分だけに注目しているようなもので、下で削り取られていく部分は全く見ていないんですよね。私たちのこれまでの経済学は、(勝手に命名しますが)”ジェンガ型”経済学だったと言ってもいいのかもしれません。

誰もが砂場で遊んだ経験があると思いますが、砂の山は、裾野を広くしないと高くできません。砂山をつくるように、裾野からてっぺんまで全体のバランスを見て着実に積み上げていくような、つまり自然環境を人間の経済活動の基盤としてしっかり捉えるような、(これも勝手に命名しますが)”砂山型”経済学に切り替えていく必要があるんですね。

今年7月にバーミンガム大学がある研究成果を発表しました。樹皮が大気中のメタンを大量に吸収していて、その吸収量は、北極圏の永久凍土から排出されている量の2倍に達する可能性があるそうです。これまでは土壌だけがメタンを吸収していると考えられてましたが、土壌と同程度か、それを上回る吸収力があると分かりました。

自然環境の仕組みはまだまだ知らないことばかり、ということですね。自然環境にどれだけお世話になっているのか、具体的な数字にすることは難しいようですが、私たちの頭の中にしっかり入れておくことは大切ですね。

さて、地球環境の保全に多大な貢献をした方々を表彰する第15回KYOTO地球環境の殿堂の表彰式が行われますので、ご案内します。

今回はダスグプタ氏、と甲斐沼美紀子氏(公益財団法人地球環境戦略研究機関研究顧問)、山岸哲氏(山階鳥類研究所名誉顧問)の3人が殿堂入り者として表彰されます。

名称: 第15回「KYOTO地球環境の殿堂」表彰式&国際シンポジウム
日時: 2024年10月14日(月)13:00~17:00 
会場: 国立京都国際会館(京都市)/オンライン 
主催: 京都環境文化学術フォーラム(京都府、京都市、京都大学、京都府立大学、
    人間文化研究機構総合地球環境学研究所、人間文化研究機構国際日本文化研究センター)
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 
【「KYOTO地球環境の殿堂」表彰式】
・京都フィルハーモニー室内合奏団による弦楽四重奏(カルテット)
・殿堂入り者表彰式(認定書授与)
・殿堂入り者による記念スピーチ
甲斐沼 美紀子 氏(第15回殿堂入り者)
山岸 哲 氏(第15回殿堂入り者)
パーサ・ダスグプタ 氏(第15回殿堂入り者)※ビデオメッセージ
【京都環境文化学術フォーラム国際シンポジウム】
・殿堂入り者記念講演

・府内高校生のピッチセッション
気候変動学習プログラム参加高校生によるプレゼンテーションを実施します。

・殿堂入り者とのトークセッション ※対談映像を上映します。
パーサ・ダスグプタ 氏(第15回殿堂入り者)
宇佐美 誠 氏(京都大学大学院 地球環境学堂 教授)

・パネルディスカッション ~持続可能な未来を描く~
(パネリスト)
甲斐沼 美紀子 氏(第15回殿堂入り者)
山岸 哲 氏(第15回殿堂入り者)
山極 寿一 氏(総合地球環境学研究所 所長)
府内高校生 ※気候変動に関する専門家の方々による3回の勉強会を通じて理解を深めた高校生
(コーディネーター)
吉川 成美 氏(総合地球環境学研究所 上廣環境日本学センター センター長・特任教授)

詳しくはこちらをご覧ください。