齢を重ねたほうが強い

初めて四十肩を経験して腕が上がらなくなったとき、「こ、このまま治らなかったらどうしよう…」なんて不安になりましたが、半年くらいで治ってほっとしました。齢を重ねるといろいろあります。でも、悪いことばかりじゃありません。さまざまな経験を積んでいるからこその強みというものがありそうです。いや、あると信じたい。

植物群落も時の流れとともその姿を変えており、この変化は「遷移」と呼ばれています。始まりは裸地から。草一本ない何もない土地に、風雨に運ばれて苔・地衣類の胞子がやってきます。すこしずつ有機物が蓄積し、土壌ができていき、土壌微生物も現れます。草本植物が現れ、昆虫や鳥もやってきます。やがて低木林が形成され、多くの光を必要とするシラカバやマツなどの陽樹が多い「陽樹林」に変わっていき、さらに時間が経過するとブナやカシなど光量の少ない環境に強い陰樹が多い「陰樹林」になります。やがて見た目上の大きな変化のない「極相(きょくそう)」という状態になります。そのような状態で人の手が入らずに何百年もたったものが原生林と呼ばれます。

10年以上前の研究ですが、清心女子高等学校と鳥取大学が論文「森林の多様性と二酸化炭素吸収量」(2011年)を公表しました。樹種・樹高・直径・樹齢などに着目して、樹木の多様性とCO2吸収量の関係について5年間にわたり調べました。その結果、樹木の多様性が高くて遷移の進んだ森林ほどCO2吸収量が多いことがわかりました。つまりCO2排出量の削減や吸収を考える時、多様性が高い森林生態系を保護することが重要だということなんですね。

今年3月、神戸大学と筑波大学の発表で、樹齢1,000年超の屋久杉の林冠に堆積する土壌から地表土壌に匹敵する多様性を持つ、しかも地表とは異なる生物相が発見されたとの研究結果が示されました。若齢樹の林冠では土壌の堆積がまだ少なく、そこに生息する生物の多様性は老齢樹に比べて低いことも分かりました。

9月には東京大学が、たとえ自然保護区を増やしても、温暖化で生物多様性が失われてしまったら、その炭素吸収の機能が低下してしまうという研究結果を発表しました。

生物と植生の多様性は相互に作用し、支え合います。生態系としての生産性が高まり、病気や環境変動にも強くなります。新しい木を植えることも大事ですが、百年単位で豊かな多様性を育み成熟してきた老齢の森林を守ることはもっと大事ということですね。

さて、生物多様性についてのセミナーをご案内します。

名称: オンラインセミナー
    「ネイチャーポジティブ実現を目指して ~生物多様性活動をどのように進めるか~」

日時: 2024年10月8日(火)14:00~15:30 
会場: オンライン 
主催: 株式会社エコロジーパス
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

「生物多様性を取り巻く最近の動向」 
講師:金澤厚

「生物多様性活動で求められる開示項目 ~TNFDとGRIについて~」 
講師:井上結貴

「今、求められる生物多様性活動」 
講師:永石文明

詳しくはこちらをご覧ください。

参考情報:
・岡山県自然保護センター研究報告「森林の多様性と二酸化炭素吸収量」(2011年)
・神戸大学:「樹齢1000年を超えるヤクスギの樹上に地表と異なる生物相を発見」(2024年3月25日)
・東京大学:「自然保護区の生物多様性が気候変動の課題解決に貢献する―30by30目標に照らし合わせて―」(2024年9月3日)