制限時間200秒 振り返って活路を見つける 

9月10日、長崎大学大学院の研究者らが、捕食されたウナギ稚魚の特殊な逃げ技について発表しました。

長崎大学:ウナギ稚魚の特殊な逃げ技:捕食魚の胃の中から消化管内を遡って脱出する

ドンコという魚に食べられたあと、胃の中まで入ってしまったウナギの稚魚は、ぐるぐる回転しながら尾部を使って食道を探し当て、尾部を差し込みます。そしてそのまま後ろ向きにするすると食道を遡っていき、エラの隙間から尾部を出し、最後に頭部をすぽんと抜いて脱出に成功しました。捕食された32匹のうち、実に9匹が脱出に成功しています。脱出できなかったウナギは消化管の中で徐々に弱っていき、平均200秒ほどで動きが止まってしまいました。制限時間200秒。命懸けのサバイバルです。

細長く、ぬるぬるした体。胃の中という強酸性でしかも酸素のない環境への耐性。脱出行動を実現する筋力。いくつもの要素が必要なようですが、個人的にはやはり「後ろ向きに泳ぐことが得意である」ことが大きな要素に思えてなりません。前向きに、大きな頭から逃げようとしていたら、細い食道に進入することすら難しいように思えるからです。後ろを振り返ってみた時、そこに活路があった、というわけです。

「フューチャーデザイン」という言葉があります。「将来世代は現在の政策決定に意思を反映できない」という問題意識に立って、現世代が「現世代が自分の利益を差し置いても、将来世代の利益を優先するための思考・行動」を発揮できる社会の仕組みをデザインすることです。

こうするための有力な手法の一つとして、「現在世代」とは別の視点を持つために、未来にタイムスリップしたと想定して、未来の世代の人間つまり「仮想将来世代」になりきって考える、というものがあります。

でも、「未来の人になりきる」と言われても、あまりピンと来ませんよね…。その感覚をつかむ練習として、現在から50年前を振り返って、その当時の人たちに向けた提言を考えてみる、ということが財務省の資料で提案されています。

財務省:将来世代の視点(フューチャーデザイン)2023年

未来への想像を膨らませて、そこから振り返るようにして現在を見る。そこに活路が見えてくる、というわけです。ウナギがドンコの胃から脱出するための制限時間は200秒。私たちの制限時間はどれだけあるのか…。いや、気持ちだけは前向きに行きたいものですね。

さて、フューチャーデザインに関するシンポジウムが開催されるのでご案内します。

名称: 第7回 FUTURE DESIGN 2024 (フューチャー・デザイン 2024)
日時: 2024年9月14日(土)10:00~18:10 
        9月15日(日)10:00~17:10        
会場: オンライン 
主催: キヤノングローバル戦略研究所、日本学術会議経済学委員会・環境学委員会合同フューチャー・
    デザイン分科会
参加費: 無料 

主な内容:下記HPより抜粋 

本シンポジウムでは、フューチャー・デザインをめぐる様々な実践や研究について議論いたします。研究者だけでなく、自治体などの実務家も含め、意見交換を行います。奮ってご参加ください。

○基調講演
9月14日(土) 
“Sustainability in the Anthropocene”
スウェーデン王立科学アカデミー人新世研究所 所長
ヘンリック・オステルブロム 教授

○特別報告1:9月14日(土)
「地方自治におけるフューチャー・デザインの社会実装に向けて:矢巾町FD条例案による制度化の試み」
花立孝美 岩手県矢巾町企画財政課 課長
高橋雅明 岩手県矢巾町教育委員会学校教育課 課長

○特別報告2:9月14日(土)
「Cardiffからその先へ:Office of the Future Generations Commissioner for WalesでのFD実践とその後の進捗」
一原雅子 総合地球環境学研究所・京都気候変動適応センター特別研究員/ 
     日本学術振興会特別研究員(RPD)

○特別報告3:9月15日(日)
「フューチャー・デザイン・コンソーシアムの挑戦」
岡本剛 九州大学 基幹教育院 准教授
上月翔太 愛媛大学 教育・学生支援機構 講師
菊地紀永 立命館大学 教学推進課 課長

○特別報告4:9月15日(日)
「長野県のソーシャルワーカーによるフューチャー・デザイン・ワークショップの展開」
中島将 長野県社会福祉協議会
佐藤もも子 東御市社会福祉協議会、社会福祉士
下倉亮一 長野県長寿社会開発センター
塩入さな江 上田市真田地域包括支援センター、生活支援コーディネーター
井上信宏 信州大学 学術研究院(社会科学系)教授

○特別報告5:9月15日(日)
「FDマニュアルの公開」
中川善典 総合地球環境学研究所教授・上智大学教授

このほか、国内外14の一般報告があります。

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