自治体のゼロエミッションはこう実現する その1

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自治体のゼロエミッションはこう実現する  その1 更新の時に既存の優れた技術を選択
歌川学(産業技術総合研究所)

はじめに

 異常気象の増加等、世界も日本も気候危機の状態にある。気候変動の悪影響は今後の気温上昇で拡大が予想され、温室効果ガス排出削減とりわけCO2排出削減対策が急務である。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は気候変動の悪影響を小さく抑える気温上昇1.5℃未満抑制のための代表的排出経路として世界のCO2排出量を2030年に2010年比45%削減、2050年に排出実質ゼロを示した。2021年8月発表の第6次評価報告書では、気温上昇1.5℃未満抑制(その達成確率50%)では計算すると2030年53%削減、2050年ゼロとなり、さらに強い対策が求められるようになっている。

 「2050年排出実質ゼロ」は、世界約140カ国、世界の多くの自治体、企業の目標に取り入れられた。日本政府も目標化、また460以上の自治体が排出ゼロを宣言(環境省,2021a)、また衆参両院と100近い自治体が気候非常事態宣言を出した。自治体計画では温暖化対策の地域計画をもつ自治体はまだ限られ、計画策定自治体も2030年目標や具体的対策・政策に課題があるなど、排出ゼロへの具体的ロードマップに課題がある。

 多くの自治体は現在の優良技術による省エネ、再生可能エネルギー(再エネ)の拡大により脱炭素転換が出来る。さらに脱炭素は光熱費の地域外流出の削減など、地域に大きなメリットをもたらす。本稿では自治体、地域での省エネ・再エネによる2050年排出ゼロへの道について報告する。

日本の排出構造と地域の構造

 日本の2019年度のCO2排出量は、電気の排出を火力発電所の排出として考えると、火力発電などで39%、産業(工場と農林水産・鉱山・建設)が25%、オフィス等・家庭・運輸の化石燃料消費分が約30%である(環境省,2021b)。

 全国1700自治体の多くには、大型火力発電所や産業の多くを占める素材製造業・大口事業所はない。大型船舶・航空も自治体の排出とは言えない。

 日本では電気の排出を消費側でとらえる計算方法を採ることが多い。この場合火力発電所の排出は自治体側では購入電力の排出になる。この割合は大半の自治体で約半分、残り約半分が工場や農業・建設、オフィス、家庭、運輸の化石燃料消費分である。購入電力の排出は省エネとともに地域で再エネを増やし、購入電力も再エネ転換しゼロにできる。化石燃料消費分は、省エネをし、また電化や再生可能熱利用への転換で将来ゼロにできる(注)。

 再エネ電力は、環境省のポテンシャル調査(環境省,2021c)によれば太陽光と風力を中心に現在の日本の電力消費量の約8倍の可能性がある。地域で、太陽熱など再エネ熱の資源もある。全体として再エネの資源量の心配はないと言える。

自治体・地域の脱炭素対策

 自治体の脱炭素対策は、2050年にむけ、エネルギー消費量を大きく削減(半減が目安)、電気も熱も再エネ転換し排出ゼロを実現する。

省エネ対策の重点とタイミング

 省エネ対策は大きく3つある。すなわち、㈰更新の時に機械を省エネに変える、㈪建築は新築、建てかえの際に断熱性能の優れた住宅・ビルにする、㈫自動車は更新時に燃費の良い車に転換し2050年までに電気自動車に転換する。これをタイミングとともに見てみよう。

 まず工場・オフィス・家庭の設備機器を省エネ型に変えることである。工場は生産設備の省エネ設備更新と改修、従業員むけ照明・冷暖房設備の省エネ設備への更新や改修などがある。オフィスや家庭の省エネ設備更新対策の代表は、照明のLED化、エアコンや冷蔵庫の省エネ機器への転換などである。オフィスや家庭は設備機器を10〜13年使う。2050年まで2〜3回の更新の機会を確実に活かし、省エネ型に替えることがポイントである。

 次に建築の断熱化である。新築や大規模改修の時に断熱性能の高い住宅・建築物を選ぶ。建物は30〜50年使用するので2050年までに新築・更新の機会は一度しかない。この機会に断熱建築・断熱住宅を選択する必要がある。

 第3に運輸とりわけ自動車の省エネ化である。自動車は更新時に燃費のよい車を選択し、2050年までには電気自動車を選択する。車は10〜13年使う。2050年まで2〜3回の更新の機会を確実に活かす。電気自動車化は再エネ電力を使い排出ゼロになるので再エネ転換に大変有利である。都市部では旅客輸送で車から公共交通機関へのシフト、貨物ではトラック輸送の共同輸送など積み荷の効率化を同時に進める。

 省エネ対策を推進する自治体政策の重点も、この設備更新のタイミングで省エネ機器、断熱建築、省エネ車・電気自動車などの選択を確実にできるよう支援することである。公的・中立の対策情報提供と、大まかなコスト情報・投資回収年目安を提供、また省エネ対策への公的・中立の専門家アドバイスが有効である。また、初期投資ゼロ円で、光熱費削減分で返済する省エネ設備機器普及政策が中小企業などの対策で有効である。断熱建築普及については断熱基準をゼロエミッションビル・住宅に強化し都道府県などで規制化し、さらに鳥取県が行っているように欧州断熱水準の基準を設けることなどが有効である。

省エネの可能性

 この3つの重点でどれくらいの省エネが可能だろうか。自治体の排出構成などに依存するものの、更新の時にエネルギー効率のよい設備機器・断熱建築・車を選ぶことで、全体で2030年に2017年比で最終エネルギー消費を約3割削減、2050年には半減から3分の1の水準まで削減可能性がある。

 ゼロエミッション住宅の断熱は基準未達成の住宅よりも暖房エネルギーは4〜6割減る。さらに欧州なみ断熱で7割以上削減可能性がある。LED化によって家庭での照明のエネルギー消費は3割、工場やオフィスは工夫で5割以上の省エネになる。空調も更新すれば2割、空調小口化などとあわせて実施し5割以上の削減、冷蔵庫も更新すると2割以上削減などの可能性がある。ヒーターやストーブのエアコン転換(工場の低温中温熱のヒートポンプへの転換も)、ヒーター・電気温水器からヒートポンプへの更新はエネルギー消費量(二次エネルギー)を4分の1から5分の1へ、ガソリン車・ディーゼル車から電気自動車への転換でエネルギー消費量(二次エネルギー)を3分の1から5分の1の水準に削減可能である。こうした対策の積み重ねが前述の大きな削減につながる。

 自治体の役割として、地域の省エネ可能性を引き出すため、日頃から省エネ対策の効果を情報提供し、地域主体が設備・建築の更新準備を促す。また、企業や家庭が自らの対策可能性をより深く検討するため、地域の業種別、世帯類型別の情報を収集し、効率情報を提供する。専門家アドバイス体制・しくみ整備も有効である。

 また、自治体管理施設の設備投資計画をたて、実行し、大きな削減と高い費用対効果を示す。

再エネ普及対策

 地域で再エネ電力と再エネ熱利用を進め、電気も熱も再エネ100%とする。

 再エネ電力を増やし再エネ100%に転換するには、地域の発電設備を増やすことと、地域の購入電力の再エネ割合を増やし再エネ電力100%にすることである。

 発電側で地域再エネ発電所を、可能な限り地域主体により増やす。地域再エネ電力で地域の需要を賄える自治体も多く、都市部も一定割合を地域再エネ発電で賄うことができる。風力・水力・地熱・バイオマスの有利な地域はこれらを活かす。陸上風力は全国消費量に近い可能性がある。太陽光は全国で設置でき、建物屋根だけでなく、農地や耕作放棄地に3分の1程度パネルを設置する「営農型太陽光」(ソーラーシェアリング)の可能性が大きい。

 次に消費側で企業や家庭が購入電力の再エネ割合を拡大、100%にする。自治体が地域電力小売会社に参加・出資し、地域の再エネ発電所の電力を地域の企業・家庭に販売、地域の再エネ割合増加を加速することも考えられる。

 地域では再エネ熱の可能性もあり、広く利用できるのは太陽熱である。この設備導入は、住宅・建築物の新築時、給湯器や暖房機器の更新時に選択肢に入れると導入しやすい。

 自治体の役割として、地域主体が再エネ発電所を適地に、適正技術で、適正コストで建設し運用できるよう、太陽光以外ではNEDOや環境省などの整理している再エネ適地情報の提供、太陽光発電や再エネ熱利用も含めた公的中立の技術情報とコスト情報の提供、希望者への専門家アドバイスの体制が求められる。

 再エネ電力は、地域外の大手が地元と紛争を起こしたり乱開発をしてしまったりすることがある。このため、地元優先規定、および再エネ設備設置可能な土地と原則建設できない土地に分けるゾーン制が有効である。再エネの妨げになるように感じられるかもしれないが、これらを放置すると長い目では対策を遅れさせてしまう。

 さらに再エネ電力普及では「送電線接続問題」がある。地域内・地域間送電線拡充を早期に行うとともに、制度の問題が大きい点については専門家を含め地域全体で担当送電会社と応対する課題といえる。

 消費側では、その地域に電気を供給する小売電気事業者の再エネ割合情報など、コンセントの先の情報を企業・市民に提供し、消費側から再エネを増やす対策が求められる。

 再エネ百%転換の技術的難易度を点検する。電力、低温熱利用(100℃以下)は再エネ転換の選択肢が豊富であり、中温熱利用(100〜200℃)と自動車燃料は電化により再エネ転換可能であるため、どちらも基本的に今すでにある優良技術の普及で可能である。一方、素材製造業などの高温熱利用(200℃以上)、船舶・航空燃料の再エネ転換には技術的課題があり一部新技術も用いて再エネ100%転換を行う。

 日本全体では省エネ再エネ対策により、2050年に今の優良技術の普及でエネルギー起源CO2排出量を95%以上削減可能である。新技術開発の寄与は残り約5%である。

 多くの自治体に関係する課題について言えば、農林・建設機械、大型トラックなどで電化製品が商業化されていない。但し農業・建設機械は海外で電化製品がみられ、大型トラックは商品化間近で、最初高くても普及で安くなり、また燃料費にあたる電気代も安く、もとがとれるようになることが予想される。

参考文献

環境省(2021a):自治体の2050年排出ゼロ宣言
https://www.env.go.jp/policy/zerocarbon.html

環境省(2021b):日本の温室効果ガス排出量
https://www.env.go.jp/press/files/jp/116118.pdf

環境省(2021c):再生可能エネルギー情報提供システム
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/