「実質ゼロ」の実現には国レベルよりも地域の実情を知りぬいた自治体の役割が大きいです。しかしその一方で、自治体がすべてを賄えるわけもなく、国が関与すべきものもあります。たとえば、各自治体が排出している温室効果ガス量の正しい把握です。これを個別自治体が独自に行うのは正直、無理だからです。
それを象徴するレポートが科学誌ネーチャ(Nature
Communications)に掲載されましたのでお知らせします(リンクはここ)。米国の都市が独自に集計している温室効果ガス排出量が実態とは大きく異なっているというのです。
世界レベルでは、都市から排出される温室効果ガスが全体の七割を占めています。そこで、全米の主要48都市(ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、ダラス、デンバー、フィラデルフィアなど)が自主的に報告している排出量を調べたところ、実際の推定排出量とくらべて大きくずれていました。
たとえば、オハイオ州クリーブランドの報告は推定量の僅か十分の一、カリフォルニア州のパロアルトは逆に四割も多く報告していました。排出量が違っているのでは、実質ゼロを目指すといっても訳が分からなくなってしまいます。さらに、自治体の間で温室効果ガスの排出を融通しあう場合には、お互いの数値が違っているのですから、これも話になりません。違いが生じる原因は、「特定の燃料や排出源はカウントしない」、「輸送による排出量算出の不統一」などで、その多くが都市独自では把握が困難なのです。
日本でも同じことが起きる心配があります。アメリカの例を「他山の石」にして、排出量を求める方式を国レベルで一定にし、しかもそれが実態を正しく反映しているものにする必要があります。科学を動員した方法論と体制の整備が早急に求められます。
論文:”Under-reporting of greenhouse gas emissions in U.S. cities”
(Nature Communications)